ある日、崖に来た妖怪を驚かせるためにがしゃどくろが飛び出した。
そこにはまるで人間のような姿をした妖怪が動じずにポツリと立っていた。
がしゃどくろが戸惑っていると目の前の妖怪はこう言った
「君は…人間、妖怪、二つの世の境界が邪魔だと感じないかね?」
並の妖怪であれば自分の姿を見れば驚いて逃げ出すはず、しかし、目の前の妖怪は逃げるどころか自分と話そうとしている。
がしゃどくろは答える。
「分からない、でも、昔の方が楽しかった」
他の妖怪に怯えて生きる今より、自分が人間達から怯えられる昔の方ががしゃどくろにとって楽しかった。それを正直に目の前の妖怪に伝えた。
妖怪はそれを聞いて言う
「そうかい、なら、君の力で妖怪も怯えさせてやればいいじゃないか」
「俺、見た目大きいだけで、弱い、驚かせるしかできない」
がしゃどくろはか細い声で応えた。すでに目の前の自分と話してくれる妖怪に対しても怯え始めていた。
「弱い…それが君の悩みかい?」
「なら、力を貸してやろう、気に入ってくれたのならそのまま君のものにしても構わないさ」
その妖怪が触れると、がしゃどくろの体を青い炎が包み込み燃え上がっていった。
やがてがしゃどくろの意識は失われていった。
がしゃどくろが目を覚ますと、先ほどの妖怪は姿を消していた。
しかし、明らかに違うのはがしゃどくろ自身の考え方。
今までは崖に来た者を驚かせるだけの妖怪として生きていたが、これからは違う。
崖などという狭い場所だけでなく妖嶽、いや妖怪の世の全ての妖怪に恐怖を与えるため、長年隠れ家としていた崖から這い出した。
数日後、妖怪の世各地で正体不明な妖怪に襲撃されたとの噂が広がる。
その妖怪は巨体でありながら姿を消す能力を持っているとされており、こちらが姿を認識する前に握りつぶしたり噛み殺される。
「そうだ、君はそうして思うがままに暴れてくれたらいい」
「ああ言い忘れていたが、その力は君の魂を原動力に使っているものだ」
「かつて人間の魂を喰らってきた君なら長く燃やすことができるだろうが、せいぜい数週間が限度だろうな」
「君が燃えている間に私は準備を進めさせてもらうよ」